アメリカ人によって提唱された意思決定のための思考法、OODA(ウーダ)。類似のものとして「PDCAサイクル」というフレームワークがあり、よく比較対象とされることが多いですが、一体何が違うのでしょうか?
今回はOODAの特徴を紐解きつつ、そのメリットをご説明するとともに、活用にあたっての欠点はあるのか、それはどういったものか?についても見ていきましょう。
OODAは、4つのステップから成り立つ意思決定のフレームワーク
まず、OODAの詳細についてです。OODAはObserve(観察)、Orient(状況判断、方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)というそれぞれの単語の頭文字を取ったもので、簡単に言えば「目的達成のため、素早く状況判断をして行動するための思考法」をさします。
ステップ① Observe(観察)
Observeは「観察する(よく見る)」という意味で、ビジネスにおいては対象となるサービスや商品を細かく確認すること。ただ自社の視点から見てみるだけではなく、周辺状況や競合、市場動向を踏まえ、柔軟な発想で客観的な事実を吸収することが大切です。
ステップ② Orient(状況判断、方向づけ)
観察した結果得られた情報をもとに、自分(自社)が元々持っていたノウハウや情報を整理、分析し、戦略の方向性を決めるための仮説を立てます。ここでの仮説は最終的な着地点を左右する可能性が高いため、慎重に行わなければなりません。
ステップ③ Decide(意思決定)
Decideは「決める」という意味で、行動にうつすための意思決定を言います。前のステップで立てた仮説を改めて見直し、他の可能性がないかも考えながら戦略を決定することです。
ステップ④ Act(行動)
意思決定において定めた内容をもとに、戦略を実行するのがAct(行動)。得られた結果によっては再度OODAを行うことになりますが、素早く繰り返せばより高い効果を得られる可能性が大きいと言えます。観察で得た情報の鮮度を落とさないためにも、ステップ①~④まではできる限りスピーディーに実行した方が良いでしょう。
OODAに似ている?「PDCAサイクル」との違い
OODAは、しばしば従来からビジネスにおける意思決定に用いられていた「PDCAサイクル」と比較されます。しかし、OODAがどちらかといえばビジネス以外でも活用できる意思決定のための思考法と言えるのに対し、PDCAサイクルはビジネスにおける論理的思考のフレームワーク(枠組み)である、という違いがあるのが特徴です。
逆に共通点として挙げられるのは、PDCAサイクルはPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)と、OODAと同じく4ステップからなる手法であること。
例えばビジネスにおいて、「自社サービスの契約件数を前年と比べて〇件アップさせる」という目標があった場合、基本的には単語の順番どおり、以下のような手順で意思決定、および実行を試みるのがPDCAサイクルです。
・Plan(計画)…設定された目標に対する戦略を策定 ・Do(実行)…計画どおりに実行し、記録をつける ・Check(評価)…どの程度達成できたかを分析 ・Action(改善)…実行、および評価に対する改善策を検討
OODAと比べると単語的にもシンプルな印象を受けますが、分かりやすい違いは「PDCAサイクルは改善まで含めている」点。そのため、会社にとって継続的にサービスや品質を見直すきっかけとなり、業務改善に適していると言われています。
ただし、丁寧な手順を踏むがゆえに改善までに時間がかかり、かつ前例を参考にしすぎて新鮮なアイディアが生まれにくいといったデメリットも。では、OODAにはどのような利点があるのでしょうか?
OODAは、柔軟な思考で行動指針を立てたい場合に適している
OODAのメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
メリット① 問題解決の対応を素早く行える
OODAは、状況を観察した上で方向性を決め、迅速に実行に移せるスタイルなので、PDCAサイクルと比べてもスピーディーに問題解決に取り組める傾向があると言われています。あえて改善を含めず、次々に新たな方向性を決めて繰り返すことでより効果が見込める手法ですから、対処も素早く行える可能性が高いでしょう。
メリット② 行動指針としても活用しやすい
明確な目標に向かって計画を行うPDCAサイクルとは違い、OODAは最初から絶対的な到達点を決める必要がありません。そのため、将来的な見通しが立ちにくいプロジェクトに対しても臨機応変に活用することができます。また、個人の行動指針として活用するのも有効。元々はアメリカの軍隊で生まれた思考法なのもあり、現場で即座に動ける人間になりたい方にとっては参考にできる部分が大きいのです。
メリット③ 行動の根拠を示しやすい
OODAは比較的素早い判断が可能な手法ではあるものの、状況をしっかりと把握した上で意識的に実行にうつすものなので、何かあった時行動の根拠を示しやすいのもメリットと言えます。
メリット④ 顧客のニーズに対して柔軟に対応できる可能性も
前述した通り、PDCAサイクルは適切な業務改善を行える手法である一方、前例に基づいた結果になりやすい傾向があります。そこで役立つのがOODAです。OODAは従来の方法に捉われない柔軟な発想を生むことに長けた手法なので、的確に行うことができれば顧客のニーズに細やかに寄り添える可能性も。
しかし、OODAには「重大な欠点」があるとも言われる!
上記の通り、一見メリットが多いように見えるOODA。ですが、反対にデメリットも存在します。それは「個人の思考力に依存しすぎる」という点です。
◎組織で活用する場合、全体の方向性からブレないよう注意
OODAは基本的に個人での意思決定に向いている手法なので、複数人で担当するプロジェクトや、組織全体で活用したい場合にはそれぞれにしっかりとコミュニケーションを取り、最終的な方向性が揺らがないように注意が必要。
また、主体性に長けた人や自己決定権を持ちたいという意識が強くある人には適しているものの、組織には様々な性格の人がいます。中には自己決定権を必要としない人、上からの指示を待って従いたい人もいるでしょう。
集団である以上それは仕方のないことですし、悪いことでもありません。とはいえ、意識に個人差があると思うように効果が得られない恐れも。共通の展望を持たない者同士が、互いの価値観を尊重しながら同じ方向性に向かうのは、非常に難しいことですよね。
◎特に現在の日本企業には不向き、との声もある
OODAは、ネットやSNSの普及もあり、個々の資質が重視される傾向が強まった現代社会においては注目されている思考モデルです。しかし、かといって「じゃあうちの会社にも導入しよう!」とすぐに考えるのは危険との見方もあります。
なぜならば、多くの日本企業は数十年間にわたり、前述した「PDCAサイクル」をもとにして安定した品質の継続や改良などを重視してきたから。
昨今では想定外の事態や環境の変化に対応すべくOODAの必要性も訴えられていますが、前述した手法をそのまま導入すると急激な変化に対応できず、失敗してしまうリスクも高いとされているのです。
◎OODAを適切に活用するために必要なのは「ビジョン」
そこで、OODAを活用するために重要とされているのが、組織全体で共有できる「ビジョン」。まずは継続的な会社としてのテーマを設定し、それに向けて社員が主体的に努力できる環境を整えることが大切だと言われています。
OODAは魅力的な思考法ですが、会社として活用するなら従来のPDCAサイクルとも両立させ、適材適所で活用していくのが堅実と言えるかもしれません。柔軟な発想力と、安定した品質改善。両方の視点から長所を活かせれば、大きな生産性に繋がるのではないでしょうか。