単品リピート通販における「アップセル」「クロスセル」「ダウンセル」とは
単品リピート通販は、たとえばある商品のリスティング広告を見た時に、ランディングページに行き、すぐにコンバージョンに至るという購買行動が繰り返されることです。商材としては、化粧品・健康食品等でこうした購買行動が見られるようです。
長期にわたるリピーターはロイヤルカスタマーと位置付けられます。ロイヤルカスタマーはマーケティング活動に対する投資に比して得られる売上が高いため、非常に利益率の高い顧客であると言えます。
こうした顧客層に対して、どれだけ顧客単価アップが図れるか、あるいは購入機会を増やすことができるかが通販の成否を分けると言って過言ではないでしょう。このとき、顧客単価をアップする方法として、既存の商品よりも単価の高いものを購入してもらうことをアップセルといいます。
たとえば健康食品であれば、成分を増強することによって、単価を上げるといった例があるでしょう。逆に、単価を下げてでも顧客獲得をしようとすることをダウンセルといいます。これは欲しいものが明確に決まっている単品リピート通販においてはあまり得策とは思えません。
これに対して一度購入してもらうならそのタイミングで他の商品も販売させようという売り方がクロスセルです。たとえば、有機栽培された健康に良いいちごを販売するときに、特別な育て方をした乳牛から得られた練乳を組み合わせる、といったイメージになります。
導線が難しい「アップセル」「クロスセル」とその事例
少し想像してみればわかることですが、「この商品が欲しい」と明確に意思表示した人に「こちらの商品のほうが良いですよ」と別の商品を勧めることや「別の商品も合わせて買ってください」と押し売りすることは難しいことです。マーケティングの観点では、押し売りは最も避けるべきことです。
顧客、ましてやリピーターやロイヤルカスタマーといった良客を焼き畑農業の対象にしてはいけません。重要なことは顧客との絆を大切にして、最大限尊重したうえで、単価や購入数量を増加させることです。
では、リピーターやロイヤルカスタマーに「アップセル」「クロスセル」を仕掛けるためにはどのような手段があるでしょうか。私たちは押し売りをされることは好みませんが、情報提供されることは喜びます。インターネット通販ではその特性を存分に活かした進め方があります。それは、「レコメンド」機能です。「この商品を買っている人は別の商品も買っています」「このモデルには別のモデルがあります」といった紹介がそれに当たります。これは冷静に考えればれっきとした営業活動なのですが、売り込んでいるわけではなく、商品を買った人に対してこういった代替案もある、という情報提供ないし提案をしているだけなのです。
とはいえ、このレコメンド機能は効果が強烈で、たとえばある商品に興味がある人はこんな商品にも興味がありますと関連商品を示すことで、その商品の使われ方、組み合され方、欲しかった商品と紹介された商品の組み合わせによって豊かになるというストーリーを描くことができます。つまり顧客は関連商品を売りつけられるのではなく、関連商品ともともとニーズがあった商品が組み合わされることで価値のかけ算ストーリーを体験するわけです。理想的なクロスセルを行うためには、商品の組み合わせを消費者にレコメンドするマーケティングセンスが要求されます。
欲しかった商品よりも単価の高い商品を購入する場合「アップセル」ではどうでしょうか。これも実は同じセンスが必要です。通販でよくみられるのは比較表です。あなたはこの商品を求めてきたかもしれませんが、実は同じような機能を持つ別の商品があり、乗り換えを実施した時には新しく追加・増強される機能によってあなたにとってこんなにもいいことがありますよ、と消費者の生活が豊かになるストーリーを描いてあげるのです。
「アップセル」「クロスセル」はマーケティングのセンス次第で、売り手の事情だけではなく、顧客との絆を深め、良客を生み出すことさえできる仕掛けなのです。
お得感、特別感の演出が必要な「ダウンセル」とその事例
「アップセル」や「クロスセル」に比べると単価の低い商品を勧める「ダウンセル」はネガティブに見えてしまいます。しかし、こう考えてみてください。消費者は買いたいものがあって、商品のリスティング広告やランディングページに行き着いている。適切にダウンセルを実行しなかったせいで取れていたはずの売上がなくなってしまったら、それは見込み客の単価を下げることになってしまわないかと。
売り手が考えるべきなのは高い商品を売りつけることではなく、見込み客あるいはリードに何かを買ってもらうことです。仮にその顧客が、売り手の進めたい商品よりも低い予算しか想定しない場合には購入が行われないかもしれず、売買が発生しなければ、顧客と関係を築くことができません。関係を築かなければ、関係を深めることができないのです。たとえ、その時一回は顧客単価が低かったとしても、顧客との絆が深まれば「アップセル」「クロスセル」によって長期的には高い収益が得られるかもしれないのですから、何としても捕まえるべきです。
そこで「ダウンセル」が必要になります。「ダウンセル」は安売り、値引きと違う、という点は決して忘れてはいけません。値引きと違う、ということを売り手が頭に叩き込んでおかなければ、「お客様の予算に合わせて安売りします」という流れになります。顧客は「自分の欲していたものを予算の枠内で買いたい」と思っていますが、「予算に合わないから不満があっても安物を買いたい」とは思っていません。単なる値引きは売り手の利益と顧客の満足をともに低下させます。また、値引きをしたということが広まってしまうと、正規の値段で購入したほかの顧客が裏切られたと感じます。これは商品やその企業のブランド価値を破壊する愚策でしかありません。
「ダウンセル」を行う場合には、少しグレードの下がる別商品を利用します。成分や機能で少し見劣りする商品を勧めます。ただし、予算の枠内に収めるために成分や機能が単に落ちたというのでは、顧客の気分を害する可能性があります。このときには、売り手側が「ひとつ前の型がある」「目的は似ていてスペックは見劣りするが別の強みのある商品がある」といった形で別商品を提示します。このとき、別商品のお得感や特別感を演出するためには、元の商品からみると一見見劣りするかもしれないが、実は顧客の用途から考えると最もコストパフォーマンスの良い選択だったという見せ方、ストーリーを作るのです。
まず、ランディングページでは標準的な商品を紹介します。ここでのストーリーは、あなたが求めることを満たすための定番はこれ、というものです。しかし、これで満足しない顧客が現れます。どうせお金を出すならもっといいものがないだろうか、という人です。商品に対して潤沢な予算がある顧客はとにかくハイスペックなものに惹かれます。「アップセル」のストーリーは、あなたが本当に欲しいものを手に入れるためには、今までとは違う体験をしたいならこれ、というストーリーです。標準的な商品から違いを際立たせるストーリーを作ることが重要です。
他方で、予算が厳しい人に対して訴えるべきポイントはコストパフォーマンスです。定番の商品やアップセル対象の商品と比較して、たとえお金をかけなかったとしても実用上十分なパフォーマンスが得られるという点を重視します。定番商品、アップセル対象、ダウンセル対象はセールスポイントがすべて異なります。それでよいのです。なぜなら、食いつくポイントが顧客によって違うからです。
「アップセル」「クロスセル」「ダウンセル」のまとめ
売上は「購買回数」と「単価」のかけ算です。購買回数を引き上げるためには新規顧客を捕まえ、商品を好きになってもらい、リピーターになってもらうことが必要です。このとき重要なことは、一度引き入れた顧客を逃さないことです。そのためには商品の値引きではなく、「ダウンセル」によって予算に収まるようなお得な低グレード商品を推奨します。
リピーターやロイヤルカスタマーとなった顧客に対しては「単価」の向上を狙います。顧客単価アップの方法にはまず「アップセル」があります。定番商品の良さを知っている顧客に対して、さらに少し上の次元の顧客体験を提供するのです。
純粋に商品単価を上げなくても顧客単価アップを図ることができます。これが「クロスセル」です。クロスセルは言ってしまえば抱き合わせ販売ですが、重要なポイントは商品の組み合わせによってこれまで得られなかった効果やこれまでとは異なる体験を顧客に提供できるということです。
「アップセル」「クロスセル」「ダウンセル」はすべて顧客が何を求めているかというニーズやウォンツの把握なくしては実行できません。まずは商品に対する期待を正しく把握することが必要です。そして、その期待をつかむことができたら、次はその顧客が商品によってどういった生活の豊かさを享受することができるかというストーリーの組み合わせを行います。そのストーリー上で、まず自社の製品を使ってもらうことが重要だからコストパフォーマンスを重視した商品を勧める、とにかくスペックの高い商品を使って格別の満足を味わってもらう、商品の組み合わせで新たな体験をしてもらう、という販売戦略を立てるべきなのです。